half
[プロローグ]
早朝、窓の隙間から冷ややかな空気が口に入り目を覚ます。
朝食を食べに階段を下り扉を開けようとするが錆きった扉のように重たく開かない台所横の裏口。

ドアの開く音・足音。人影が見える気配すらない。
オレンジ色の澄み切る雲。
眺めていた雲の色が変わる頃にドアが開く音がした。
どれくらい待っただろう。ようやく朝ごはんを食べ終わり、
テーマの文章を考えるがスムーズに浮かばずパソコンの電源を切り、
日差しの当たった枕にピアノの旋律の音楽を聴きながら目を閉じ顔を沈める。
心が安らぎ静かな時間。一時が過ぎ新宿駅から総武線に乗り換え
初めて神田の地に降りた。改札口を出て顔を上げると雲はグレー色一色。神田は個展へ赴き帰り道に下調べをしていた喫茶店に寄るのが目的であった。だが本当の理由は自然と会話の言葉が浮かぶ人と喋り心を軽くしたかったのかもしれない。入居当初、住んでいるアパートには60人程いたが今は50人程しか住んでいない。それでも喋れる人は片指。なぜなのかもわかる。到着し早々に名簿欄に名前を書き終へると、イヤホンから聞こえる音と聞き覚えのある声がしたので後を振り向くとそこには青年が笑顔で立っていた。一言二言の挨拶をすませじっくり写真を見たくイヤホンを付け直し朝に聴いていた作曲家の違うアルバムを流し目の前の写真と対面する。見終え流まで3つのアルバムを聴きイヤホンを取ると間を見計らったように青年が話しかけてきて感想を聞かれるが、心で思った言葉しか言えない。そのまま言葉を伝え終えると彼はニヤリと口角を上げ写真のことを説明してくれて嬉しかった。声には純粋に写真が好きなんだろうとなと素人でもわるほど感情がこもってた。
羨ましく今にも泣きそうだ。帰り際、好きな百合の写真を2枚購入した。寿命で枯れ落ちた百合の花と、生きたまま真っ直ぐに咲いているあおみかかった百合の花の写真。
帰り際に挨拶をすま外に出ると緊張が解けたのか鈴虫の鳴き声のようにお腹の音がなり、目的の喫茶店へ向かう。
普段なら例え知らない町でも歩き彷徨い向かうが閉店時間が近づいていたこともあり電車に乗った。最寄り駅を降りて歩き始めると地図を開いていた携帯が突然きれたと同時に音楽も消え、あまりのこわさにすぐさま引き返す。見たこともない鉄に囲まれたトンネル・四方からの聞こえてくる声・帰りの電車の中で知るファンだった方の悲報。

恐怖を抱えたまま最寄り駅近くにある行きつけの喫茶店へ行き食べたバタートーストとカフェオレ。
会計後にオーナーの口から出た気づかいの優しい褒め言葉。去り際の抱きしめかた。
会話の全部。外で降っていた雨が僕の代わりに泣いてくれた。
この気持ちが消えるとどうなるのだろうと手だけが自然と走る。
この芽生えなければ心は今も写真の一枚と同じ枯花のままであっただろうか。
この物語には畢生(終生)の友へ愛と感謝の気持ちが込められています
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